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[FactCheck] 上田氏主張「県の借金減らした」はミスリード 〜検証・参院埼玉補選

[FactCheck] 上田氏主張「県の借金減らした」はミスリード 〜検証・参院埼玉補選

議員の辞職に伴う参議院埼玉選挙区の補欠選挙(10月10日告示、27日投開票)で、元埼玉県知事の上田清司氏とNHKから国民を守る党党首の立花孝志氏が立候補している。選挙公報の主張をファクトチェックしたところ、両候補とも一部に正確さを欠く主張があった。ここでは、上田氏が埼玉県知事の実績として「県の借金を約7000億円減らした」とする主張を検証する。同時に立花氏の発言も検証したので、他の2本の記事もあわせて参照していただきたい。(田島輔)

チェック対象
県の借金 約2兆6千億円を1兆9千億円に、約7000億円減らす。▲26%(H14→H31見込み)(上田きよし候補の選挙公報)
結論
【ミスリード】減収補填債と臨時財政対策債を除いた県債は6000億円余り減少している。だが、減収補填債と臨時財政対策債を含めた県債総額は1兆円超増えている。それに言及していないので全体として県債残高が減少したとの誤解を与える。

検証

上田清司氏は、衆議院議員を辞職した後の2003(平成15)年8月、埼玉県知事選挙に立候補して当選。以来、4期連続知事を務め、今年8月、任期満了で退任した。

上田氏の選挙公報には「上田県政が変えた16年」と題して知事時代の実績が列挙されている。そのうち「財政の健全化」では「県の借金 約2兆6千億円を1兆9千億円に、約7000億円減らす」とグラフ入りで強調していた

ところが、埼玉県が公表している一般会計県債残高推移の資料によれば、上田氏が知事となる前の2002(平成14)年の県債残高は2兆6864億円で、2018(平成30)年の県債残高は3兆8290億円。1兆円以上増えていた。

では、上田氏は、なぜ「7000億円減らした」と主張しているのか。

上田氏の選挙公報のグラフをよく見ると、「県でコントロールできる県債を適正管理することで残高が減少」と小さな文字で書かれている。

たしかに、「臨時財政対策債(臨財債)・減収補填債を除く残高」(上記グラフの青の部分)をみると、(知事就任前年の)2002年の2兆5865億円から2018年の1兆9673億円へと約6200億円減っていることがわかる(上田氏のいう7000億円減という数字は、2019年の県債残高見込みを含めて算出された可能性がある)。つまり、上田氏は「臨財債・補塡債を除く残高」を減らした、とアピールしたかったと考えられる。

臨時財政補填債・減収補填債も県が発行した地方債(借金)に変わりない

臨時財政補填債とは、国の地方交付税として交付する財源が不足したことから、地方交付税の不足分を穴埋めさせるため、県に発行を認めた地方債である。その元利償還金相当額について、総務省は地方交付税で後払いされると説明している

また、減収補填債は、地方交付税額を算定した際に想定した県の収入よりも、実際の収入が不足した場合に、不足分の補填のために県に発行を認めた地方債である。減収補填債の元利償還金相当額についても、総務省は地方交付税で後払いされると説明している

臨時財政補填債も減収補填債も、「地方交付税を補完する仕組みとして、国の定めたルールに基づいて発行可能額が算定される」ため、「個々の地方公共団体の財政運営の結果や財政規律と発行額とは関係がない」とされる(ニッセイ基礎研究所「急増する赤字地方債と地方交付税制度ー赤字地方債発行の動向とその背景」参照)。そのため、上田氏は、これらの県債を除外して「県でコントロールできる県債」だけで実績をアピールしたと考えられる。

しかし、「後年度に地方交付税で措置されるとはいえ、臨時財政対策債の債務を返済するのは、発行体である地方自治体である」(弘前大学の金目哲郎准教授=財政・公共経済)と指摘されているように、臨時財政対策債も減収補填債も県が主体となって発行した県債であることに変わりはない。

埼玉県「一般会計県債残高の推移」の資料で2002年と2019年を比較すると、臨時財政対策債は691億円から1兆7414億円に、減収補填債は308億円から1203億円に増加している。その結果、県債の総額は、名目はどうであれ、全体として1兆円以上増えたことは確かである。

ニュースのタネ編集部は23日、上田きよし候補の選挙事務所に「県の借金を7000億円減らした」との主張は誤解を与えるのではないかと指摘して見解を求めたが、24日までに回答はなかった(回答があり次第、追記する)。

結論

減収補填債と臨時財政対策債に言及せず、それ以外の県債だけを取り出して、県債が減少しているとアピールすることは、全体として埼玉県の県債残高が増加している事実を覆い隠し、減少しているとの誤解を与える。よって、「ミスリード」と判定した。

(この記事は、ファクトチェック基本方針レーティング基準に基づいて作成しました)

田島輔

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