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トランプ米大統領は窮地に立たされていないのか?トランプ政権を妄信する日本

トランプ米大統領は窮地に立たされていないのか?トランプ政権を妄信する日本

米国は脳腫瘍で死去したジョン・マケイン上院議員の葬儀の報道が続いている。ベトナム戦争で北ベトナム軍の捕虜になりながら北ベトナム側への協力を拒否したことで知られる共和党の重鎮は米政界において伝統的な保守政治家の代表格として知られるが、葬儀には民主、共和の党派を超えた人々が集まった。民主、共和問わず歴代の大統領が参列し、オバマ前大統領は哀悼の意を表すスピーチを行っている。

しかしその場に現職の大統領はいない。マケイン議員がトランプ大統領の参列を望まなかったからだと報じられている。恐らく事実だろう。

娘のメーガン・マケイン氏は式典で、「父は生前、『アメリカを再び偉大にする』など意味は無いと語っていた。なぜならアメリカは常に偉大だからだ」と語り、トランプ大統領を揶揄した。

こうした状況が既に厳しい状況にあると見られるトランプ大統領を、更に厳しい立場に追い込むとことが容易に予想できる。

トランプ大統領は就任以来、特に退役兵への手厚い保護を打ち出してきた。これは、全米各地で少なからぬ政治力を持つ退役兵のグループから支持を得る狙いと考えられるが、ベトナム戦争の「ヒーロー」であるマケイン議員から事実上の「三下り半」を突きつけられたことで、そうした支持が揺らぐ可能性がある。

ワシントン・ポスト紙は8月31日、トランプ大統領の不支持率が60%に達したと報じている。これはワシントン・ポスト紙とABCテレビが共同で行ったもので、支持率は36%だった。

この調査では、トランプ大統領も捜査の対象となっているロシア疑惑についても質問している。その結果は、トランプ大統領の容疑の核心であるFBI長官の解任について、53%が司法妨害の疑いが有るとしており、そう考えないと答えた35%を大幅に上回っている。

トランプ大統領は度々この捜査を「魔女狩りだ」とツィートで批判しており、その頻度は増している。それだけ危機感をつのらせていると見るのが自然だろう。

こうした中で、11月6日に行われる中間選挙が注目されるのは間違いない。トランプ大統領も捜査を批判する以外では、選挙での共和党への支持を呼び掛けるツィートを連発しており、その必死さがわかる。

それは、前述の世論調査の結果からもわかる通り、ロシア疑惑の捜査が無視できない状況になっているからだ。側近だったマイケル・フリン元大統領補佐官に続き、顧問弁護士だったマイケル・コーヘン氏も罪を認めた上で捜査への協力を約束していると報じられている。司法取引だ。司法取引で本人の刑を軽くするかわりに、自らの知り得たことを捜査側に話す。協力しなければコーヘン氏の懲役刑は60年を超えるとされる。協力しないわけにはいかないのだ。

それでも日本の識者の中には、トランプ大統領は窮地に立たされていないとの論陣を張る人がいる。しかし、他ならぬトランプ大統領自身が現状を窮地と感じていることは発言から見て取れる。

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トランプ大統領がジェフ・セッションズ司法長官の解任を公にほのめかし始めたからだ。日本のメディアではこの司法長官についての記事を見ることは稀だが、今後はこの人物の去就に注目した方が良い。トランプ大統領がアラバマ選出の上院議員だったセッションズ氏を司法長官に就けた理由は、まさにこのロシア疑惑の捜査をほどほどで終わらせるためだった。ところが、セッションズ長官は自身とロシア政府との接触を隠していたことが明らかになりこの捜査に関与しない状態に追い込まれ、自ら捜査から身を引く宣言を行っている。

ロシア疑惑の捜査を進めるロバート・モラー特別検察官の任命は、司法長官が関与できない中で、司法の独立が危機に瀕しているとの認識に立ったロッド・ローゼンスタイン司法副長官が独断で進めたものだった。トランプ大統領が、このモラー特別検察官の就任を、記者発表の僅か30分前に知らされたというのは有名な話だ。

モラー特別検察官の捜査はローゼンスタイン副長官の協力を得て広範囲にわたって行われている。しかし、仮にセッションズ氏が解任され新たな司法長官が選ばれれば、ローゼンスタイン副長官とモラー特別検察官のコンビは機能しなくなる。新たな長官が直接、モラー特別検察官の監督者となるからだ。

トランプ大統領を慌てさせるほどの捜査を進めるモラー特別検察官だが、大統領を訴追する権限は無いとされる。仮に、トランプ大統領の不正が判明したとしても、それを大陪審にかける(起訴手続きに入る)ことはできず、議会に諮ることになると見られる。

その判断は、現状ではローゼンスタイン副長官が行うことになるが、仮に、新たな司法長官が任命されれば、新司法長官が行うことになる。当然、それはトランプ大統領の意を受けたものになる。つまり議会に示されずに終わる可能性が高い。

ブルムバーグとのインタビューでトランプ大統領は、「セッションズは11月までは仕事をする」と語っている。この発言は、中間選挙の結果次第では、つまり民主党が勝つような事態になればセッションズ氏を解任するという意味だ。

ここでも、日本の識者の中には、「トランプ大統領は中間選挙での勝ち負けなど気にしていない」と話す人がいるが、それは大きな間違いだ。選挙の結果次第では大統領を弾劾する手続きに入る可能性が出てくるからだ。

因みに現状では、下院議員435人のうち、共和党が235人、民主党が193人となっている(欠員7人)。上院は定数100に対して、共和党50、民主党49だ(欠員1)。ここで注目されるのは、全員が改選となる下院だ。下院は弾劾手続きに入るか否かを決める権限を持つ。

仮に民主党が中間選挙の結果、下院で過半数を制し、更にモラー特別検察官がトランプ大統領の疑惑を議会に提出するとなれば、下院は弾劾の手続きに入る可能性が高い。

日本の一部のメディアは、そうなったとしても最終的に弾劾の可否を決める上院で共和党が過半数を制していればトランプ大統領の今後に影響は出ないと伝えている。しかし、そうではないという見方もある。

「トランプ大統領は歴代大統領の開示に応じてきたTax Returnと呼ばれる税務申告書類の開示を拒んでいる。しかし弾劾の手続きが始まれば、これの開示に応じないわけにはいかなくなる」

トランプ大統領の追及で2017年全米雑誌大賞を受賞しているNPOメディア「マザー・ジョーンズ」のラス・チョーマ記者は、そう話す。

「この書類が開示されると、トランプがどこからどのような融資を受けているのか、本当に彼がビジネスで成功してきたのかが全てわかる。それはロシア疑惑と絡んでトランプ大統領にとって極めて不都合なものとなるだろう」

例えば、としてラス記者が語ったのは、「仮に、ロシアの金融機関からの融資が記載されていた場合はどうだろうか?」・・・更にトランプ大統領が追い込まれることは間違いない。その結果、共和党もトランプ大統領を守れなくなるということは十分考えられる。

そうならないためのセッションズ司法長官の解任・・・ブルンバーグに語ったトランプ大統領の判断はそう理解すべきだろう。

しかし、本当にそうなった時、ロシア疑惑は44年前の1974年にニクソン大統領が辞任に追い込まれたウォーターゲート事件の様相を呈することになる。この時、ニクソン大統領は独立検察官(モラー氏の特別検察官とは異なる)の解任に応じなかった司法長官を解任し、更に独立検察官を解任する。それは「土曜の惨劇」として今も米国人の記憶に残っている。その惨劇の結果、議会は共和党も含めて大統領弾劾の手続きに入る構えを見せざるを得ず、ニクソン氏は大統領職を自ら辞している。

今、トランプ大統領が、ニクソン氏と同じ道をたどることになりそうだと感じている米国人は少なくない。

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