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米朝関係の報道でマスコミ各社は政府に踊らされてないか

米朝関係の報道でマスコミ各社は政府に踊らされてないか

「正恩氏は拉致問題に関する日本との対話にオープンな姿勢を示した」

米朝首脳会談後の15日付で朝日新聞が報じた記事だ。これはトランプ大統領が安倍首相に電話で伝えた内容ということで、「安倍政権幹部」が語ったという。細かい表現や情報源の表記は違うが、各社とも、大筋で同じ内容を報じている。

これまで北朝鮮との対話を拒否してきた日本政府にとって良い情報ということになる。ただ、冷静に見れば、不自然なニュースと言わねばならない。

先ず、トランプ大統領から電話を受けた当の安倍首相からは一言も出ていない。菅官房長官からも何も無い。つまり公式な発言ではないということだ。トランプ大統領も米朝首脳会談後の会見で明確なことは話していない。

 参照 トランプ王国の素顔  元NHKスクープ記者が観たものは

電話の直後に官邸で安倍首相が記者団に語ったのは、内容について明らかにできないということと、拉致問題は日本政府が解決に取り組むべきとの認識だった。どちらかというと厳しい表情にも見えた。

それにも関わらず、この報道は「事実」として広がっていく。産経新聞の15日付の紙面で、金正恩委員長は「12日の米朝首脳会談でトランプ大統領に『安倍晋三首相と会っても良い』と語っていた」と報じている。これは論説委員による記事だが、前述の通りトランプ大統領はそうした発言をしていない。では、この記事は何を根拠にそう断定しているのか?当然の様に、記事には根拠が示されていない。

言うまでも無く、米朝間で実際にどういうやり取りが有ったのかは今の段階ではわからない。各社の情報源は、本当に、トランプ大統領と安倍首相との電話のやり取りを確認できる立場にあるのか?記者はその情報を再度確認したのだろうか?ジャーナリズムの鉄則は、1つの情報源を鵜呑みにしないということだが、どうもそうした努力の形跡は見られない。

実は米朝会談についての一連のマスコミ各社の報道を振り返ると、こうした根拠の不明確な情報が繰り返し報じられていることがわかる。

その多くは北朝鮮に強硬的な姿勢を示す日本政府に都合の良い報道となっていたことも指摘しておきたい。そして、実際のところ、報じた内容の多くは事実とは言えないものだったことがわかっている。

1月8日にはテレビ朝日の報道ステーションが、米政府が北朝鮮を限定攻撃する計画を策定したとし、北朝鮮は攻撃されても反撃しないと米政府が判断したという報道までしている。

参考記事 報道ステーションが使った「アメリカ政府関係者」の怪

米軍が今にも北朝鮮を先制攻撃するかのような報道だった。米政府からはその後、それを裏付けるような発表は一切ない。逆に、米軍が北朝鮮を攻撃した場合に北朝鮮の反撃によって未曽有の被害が出るとの試算が出されている。

その一方で、米朝会談が不可避となると、全く逆の報道も行われるようになる。フジテレビは、米朝会談をトランプ大統領が決断するまでに日本政府が主導的な役割を担っていたとするニュースを報じている(3月9日)。この報道は、そもそも何の根拠も示しておらず、その後の日本政府、米国政府の発言からもそれを裏付けるような内容は無い。

こうした報道は全て検証が必要だろう。

ところで、平壌放送は、「日本は既に解決された『拉致問題』を引き続き持ち出し、自分らの利益を画策しようとしている」と報じたという(ラジオプレス)。そうだとすると、各社が流したトランプ大統領から安倍総理に語られた発言とは何だったのかということになる

これは政府の情報操作に踊らされただけではないのだろうか?書いた記者には否定し反論してもらいたいが、とても否定できる説明ができるとは思えない。

もう1つ指摘しておきたい。米朝会談の後に行われたトランプ大統領の記者会見で、朝日新聞は、拉致問題について金正恩委員長に伝えたことを明らかにした上で、「『うまくいくだろう』と語った」と報じている。これは事実ではない。

トランプ大統領は「It will be worked on」つまり、「取り組みが行われるだろう」と言っただけで、「うまくいく」との感触まで語っていないからだ。当然ながら、「うまくいく」を意味する英語は、「It will be worked out」だ。「worked on」ではない。

これは誤訳だと信じたいが、そうでないのであれば、それは「情報操作」と指摘されても仕方がないだろう。

 (参考記事 拉致の記憶~蓮池兄がたどる拉致事件 )

 

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