インファクト

調査報道とファクトチェックで新しいジャーナリズムを創造します

3 1 1 緊急特集 「 福島第一原発事故から6年 」 「甲状腺がん多発 − 被曝の影響は本当に無いのか?」後編

この指摘内容はチェルノブイリと福島との共通点でもあり、ベルリンの国際会議でも問題視され、津田氏も一貫して言及してきたが、「検討委員会」では議論されてこなかった。

甲状腺がん手術を実施している福島県立医大教授の鈴木真一氏の報告内容と、重松逸造氏(当時、放射線影響研究所理事長)が、チェルノブイリ事故10年後の健康影響について書いた論文内容を比べると、共通点がわかる。

鈴木氏の報告内容(福島、2015年3月31日時点):
「96例中93例が乳頭がん、甲状腺外浸潤 39%、リンパ節転移74%、肺への遠隔転移2%」

重松氏の論文内容(チェルノブイリ、「原子力工業」第42巻 第10号1996年):
「甲状腺がんの多くは進行状態にあって、甲状腺周辺組織への浸潤やリンパ節転移、あるいは頻度は少ないが遠隔転移も認められる。」

しかも、重松氏は「浸潤性が高い、転移が多い、肺への遠隔転移という所見は、甲状腺がんの増加が単に検診による発見機会の増加に基づくものではないことを示している」と、上記の共通する所見を「スクリーニング効果」を否定する根拠としていた。

そして、「若年の小児ほどリスクが高く、発生増加が継続すると考えられるので、将来の甲状腺がん有病率増加に備えた適切な対策が必要となろう」とも述べていた。

鈴木氏の報告からは、ほとんどが乳頭がんだったことがわかる。これは、ウクライナとベラルーシを比較したドイツ国立環境・保健研究センターの、「事故当時1〜18歳の甲状腺がんで約94%が乳頭がんという共通点がある」という報告内容とも共通する。(“Thyroid Exposure in Belorussian and Ukrainian Children after the Chernobyl Accident and Resulting Risk of Thyroid Cancer” 2005)

甲状腺被曝専門の長瀧重信氏は、乳頭がんについて以下のように解説していた。

「乳頭がんは転移しないので有名だが、チェルノブイリの子供たちは10%、20%も肺に転移している。10歳以下の子供が乳頭がんになると、大人と全然違って転移が早い。」(「原子力文化」1996年7月号)

さらに、ベルギーでチェルノブイリによる小児甲状腺がん多発問題に取り組んできた、ルーヴァン大学病院外科医のルーク・ミシェル教授の以下の論文は、被曝との関連を明示している。

「30年にわたって、事故当時15歳未満だったベルギー人の甲状腺乳頭がんの発症率が高まっている。小児期における甲状腺の放射線被曝は、悪性甲状腺腫瘍に関連した最も明確な環境因子で、生涯リスクは持続し、最も多い病理組織型は乳頭がんである。」(ACTA CHIRURGICA BELGICA, 2016 http://dx.doi.org/10.1080/00015458.2016.1165528 “Post-Chernobyl incidence of papillary thyroid cancer among Belgian children less than 15 years of age in April 1986: a 30-year surgical experience ”)

チェルノブイリでの転移については、実は、「スクリーニング効果による」とし、放射線の影響を否定した、「検討委員会」の初代座長である山下俊一氏らによる報告もある。


311緊急シリーズ「福島第一原発事故から6年」   「甲状腺がん多発 − 被曝の影響は本当に無いのか?」前編

Return Top