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311緊急シリーズ「福島第一原発事故から6年」   「甲状腺がん多発 − 被曝の影響は本当に無いのか?」前編

●発症数と被曝線量による予測数が一致しない

ハ)の「甲状腺被曝線量による予測値と、実際に発症した数が一致しない」については、専門家の証言がある。

内山正史氏(1996年当時、「放医研」研究員)
「事故時に子供であった人に現れている甲状腺がんの数は、甲状腺線量および現在のリスク投影モデルに基づいて予測されるがんの数と大きく矛盾する」

ラリサ・ダニロヴァ氏(2014年3月当時、ベラルーシ医療アカデミー内分泌研究所所長)
甲状腺の放射性ヨウ素被曝量を算出してがん発生を予測した数と、実際に発見された症例数を比べると、不一致がみられた」

被曝線量による予測と実際の数に不一致がある以上、「被曝線量が少ないから」という理由で、被曝との因果関係を否定し続ける意味はないだろう。

内山氏は、「甲状腺がん症例の増加が数十年間続くことは確かだろう。生涯にわたる綿密な追跡が必要である」とも述べている。
「検討委員会」は、このような報告内容こそを参考にするべきではなかったか。実際、ベラルーシの2010年前後の甲状腺がんデータをみると、増加は止まっていない。

ニ)については、甲状腺被曝が専門の長瀧重信氏(1996年当時、長崎大学医学部長)の「原子力工業」掲載論文を引用する。
「被曝線量がわからないのに甲状腺がんだけが科学的に証明されたとされているのは、特殊な事情による」と、長瀧氏は以下のように解説していた(抜粋要旨)。
「小児甲状腺がんは、欧米や日本では年間100万人に1人の稀な疾患である。ベラルーシの子供200万人に対し450名以上が手術で確認されたとなると、これは被曝線量の測定、疫学的な調査を待たなくても明らかに多いということになる」。
この見解に照らすと、約38万人の子どもの検査で145人の甲状腺がんが手術で確認された福島でも、「被曝線量の測定も疫学調査も待たずに、甲状腺がんの多発が科学的に証明された」とはいえないだろうか。
(続く)

<<執筆者プロフィール>>

川崎陽子
欧州(ドイツ語圏)在住環境ジャーナリスト。 横浜国立大学卒業後、研究職・技術職を経て渡独。公害大国がなぜ環境先進国になれなかったのかを追求するため、ドイツ・アーヘン工科大学で応用工学修士(環境学・労働安全)取得。 中央集権制官僚主導政治やメディアの偏向報道などドイツとの違いに気づき、執筆テーマに関連付けて発信中。 主なテーマは、サスティナビリティー(持続可能性=次世代以降に引き継ぐ地球環境保全)と、そのための核廃絶、日本古来の伝統作物大麻(おおあさ=ヘンプ)の復活、および地域主権。 共著に「公害・環境問題と東電福島原発事故」(本の泉社、2016年)など。


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