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米国ジャーナリズムの新たな潮流~非営利化する調査報道③

立岩陽一郎



ルイス・バージニア州のジョージ・ワシントン邸で
バージニア州のジョージ・ワシントン邸で
ルイスと撮った1枚。2011年撮影

●寄付で運営する非営利報道組織を構想

非営利団体・・・つまり営利を目的とせず公共の利益の為に活動し、その財源を広く人々からの寄付に求める組織のことである。それは米国では社会の様々な分野で活発に活動している存在だ。しかし、このような形態でジャーナリズムを実践する団体というのは稀だった。
もっとも、非営利ということだけを広義にとらえるならば、ジャーナリズムを実践する団体は以前から無かったわけではない。最も古いのは 1908年に創設されたクリスチャン・サイエンス・モニター紙(Christian Science Monitor)である。
米国に本部のある世界的な通信社のAP通信も非営利である。公共放送PBSも非営利である。ただし、これらは何れも財源が安定している。クリスチャン・サイエンス・モニター紙は,ボストンに本部のあるキリスト教の教会が創設したものでこの教会からの寄付が財源である。AP通信は加盟するマスメディアの加盟料で運営されている。PBSは議会からの助成金が財源の主なものである。それらは寄付を広く一般から募るというものではない。
ルイスは寄付を特定の者に求めない、従来とは異なる形でのジャーナリズムの確立が必要と考えた。この点についてルイスは、「財源を確保することは重要だが、特定の団体や個人からのみ資金を得るのでは,『寄付した者の意図に基づいて取材をしているのではないか』と疑問を持たれる。それでは社会の信用を得ることはできない。財源は幅広く寄付を募ることが重要だ」と話している。
ルイスが寄付の提供者として期待をかけたのは,foundation (筆者訳:慈善事業財団、以後、財団)だった。しかし、その道は当然、楽なものではなかった。2011年にニュージアムで開かれたルイスを表彰するパーティーで、当時ルイスから寄付を求められたある財団の責任者が挨拶に立ち、「友人から電話が有り、CBSを辞めたチャールズ・ルイスという男が君を頼って行くから相談にのってくれと言われた。それで会ったのだが、私が最初に彼に言ったのは,『今からCBSに戻って謝罪し、また仕事を続けなさい。君が考えているほど簡単に寄付なんか集まらないよ』というものだった」と話している。
それでもルイスは友人 2人の協力を得て団体を立ち上げる。それが The Center for Public Integrityの誕生で,同時にそれは,非営利ジャーナリズムの夜明けとなるものだった。
最初は苦戦が続いたが、徐々に寄付が集まるようになる。ルイスは最初に得られた寄付について今でも覚えている。それは THE MARY REYNOLDS BABCOCK FOUNDATIONという財団が出してくれた 2万 5000ドルだったという。

●最初の事務所は自宅の2階

団体名にある Public Integrityとは、「公共の清廉」とか「公共の健全性」という意味である。Integrityという英語に馴染む日本語を見つけるのは困難だが、この言葉は米国人が耳にしても随分と肩肘をはったものに聞こえるらしい。この名称について、ルイスは,「本当は The Center for Investigative Reporting(筆者訳:調査報道センター)が良かったのだが、その名称は既に登録されていて使えなかった。それで考えた末、public integrityという言葉を使おうと考えた。気恥ずかしさは有ったが、それくらい自分を鼓舞したいという思いもあった」と語っている。
自分を鼓舞する必要があったという当時の心情を、前述のニュージアムの講演の場でルイスが披露している。ルイスには当時 8歳になる娘がいた。その娘とのやり取りについて語ったものだ。
ルイスは、「娘が私の新しい事務所を見たいとせがむのには困りました。新しい事務所といってもバージニアの自宅の 2階がそれだったわけです。しかしそれでは娘が不安がるだろうと思って、ワシントンDCの郵便局へ連れて行き、『ここがお父さんの新しいオフィスだよ』と言って安心させたものです。それがあながち嘘ではなかったのは、実は私は郵便局に私書箱を開設していたからです」と語り 出席者の笑いを誘っていた。
この話は後に、現在、ニューヨークで演劇の脚本家をしている本人、カサンドラー・ルイスに筆者が確認したところ、本当にあったことだと話していた。

●大統領選と政治資金の関連調査し注目集める

ルイスにとって自宅は事務所というだけでなく、資金を得るための担保物件でもあった。寄付を集めつつ、自宅を担保に得た資金でCPIの活動を開始したのである。 調査報道の対象として選んだのは、政治と金の関係である。そこにはABCテレビで手ほどきを受けたバーンスタインの影響もあったと見られる。バーンスタインがニクソン大統領を追い込んだウォーターゲート事件の決め手は金だった。
「今では米国の調査報道の世界では、『follow the money』というのが、一種の合言葉となっているのだが、これは映画『大統領の陰謀』で最初に使われたセリフだ。金を追え。そうすれば真実に近づける。私が目指したのは、金を追うことで政治の本質を明らかにするというものだった」
その調査報道の結果は、CPIの知名度を全米に知らせるほどのインパクトを持つに至る。内容は、大統領選挙がいかに政治資金によって左右されているかを社会に示すもので、ルイスは米国社会で誰もが疑問に思いつつ、実際には誰もが素通りしてきたテーマに、作ったばかりの団体で取り組んだのである。(続く)
(この原稿は、南山大学アジア・太平洋研究センター報第8号(2013年6月)に掲載された論考を著者の承諾を得て転載したものです)
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<<執筆者プロフィール>>

立岩陽一郎 

NHK国際放送局記者
社会部などで調査報道に従事。2010年~2011年、米ワシントンDCにあるアメリカン大学に滞在し米国の調査報道について調査。

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